瞬くたびに
戻りたい
年末年始は帰省やら何やらが重なって、結局次に葵に会えたのは、冬休みが終わる直前だった。

駅の改札口に立つ、久しぶりに見る彼の姿が嬉しい。

会えない間、連絡をしようか悩みに悩んだが、結局躊躇してしまったから顔を見るどころか声を聞くのさえ久しぶりだ。

話したいことを色々と考えてきたはずなのに、いざ向かい合ってみると何も出てこなくて、結局「あけましておめでとうございます」とだけ言った。

葵も微笑んでおめでとうと返す。

「なんか、久しぶり。実家に帰っていたんだっけ?」

「はい」

本当は葵のことが気になって、帰省どころではなかった。

いつもは居心地のいい地元でも、今回ばかりは時間の流れが遅く感じられてじれったく思っていたのだ。

切符を買おうと券売機へ向かう結々を、葵が止める。

「待って。もう買っておいたんだ」

そう言って切符を差し出す。

「ありがとうございます」

お礼を言って財布を取り出すと、葵が笑って首を振った。

「いいって、このくらい。俺がおごるよ」

「でも」

「いいんだよ。今日は俺の行きたいところに付き合ってもらってるんだから」

一人暮らしのアパートに戻って来た直後、行きたいところがある、と葵からメールが届いた。

聞いてみると、街外れにある海水浴場だという。

葵の方から行き先を指定してくるなど珍しかったため、よほど思い入れのある場所なのだろうと、二つ返事で承諾したのだ。
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