セルロイド・ラヴァ‘S
10時半近くでお開きにして羽鳥さんはアパートまで私を送ると言った。

「大丈夫ですよ、ちょっと用事もありますし」

愁一さんからラインで、帰りに寄るようにと返信が来ていたのだ。

「ならそこまで送ってくから」

店から出た途端、冷え込む夜気に包まれて。ダッフルコートよりそろそろダウンコートの出番かなと思う。羽鳥さんは車だからとスーツだけで、コートすら着ていない。

「寒くないですか?」

「大丈夫こうすれば」

言うなり私の手を不意に握って繋いだ。

「羽鳥さん・・・っ、あの」

「防寒だってば」

全く悪びれない様子でそのまま歩く。

「本気で嫌なら振り解いていいから」

「ッ・・・、もう、どうしてそういうこと言うんです・・・っ?」

「困る?」

「当たり前です!」

「なんで困ってるか自分で分かってない?」

なんでって!

さっきからこのやり取りに少し苛立っていた。私に好きな人がいるのも知っていて、どうしてこう自分勝手なの。いい加減にして。反論しようとして、彼の口から出た次の言葉に息を呑んで。固まった。

「俺を好きだから」
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