セルロイド・ラヴァ‘S
「・・・昨日のイヴは保科さんとどっか行った?」

カーステレオから控えめに流れているのは軽快なヒップホップ系の人気グループの曲。羽鳥さんの口調も世間話くらいサラリと。そういうことって気になるもの?

「外で食事したぐらいですけど。・・・愁一さんのお友達がフレンチのお店のオーナーさんで。何度かテレビでも紹介されたお店みたいですね」

「へぇ俺も行ってみたいな」

素直な感想が返った。

「俺の悪友は泥臭いのばっかだな。車屋とか建築屋とか塾の講師とか?」

「羽鳥さん、昔はヤンチャしてたんでしたっけ?」

クスリとすると。

「怖いもの知らずのガキの頃だよ。まあ、あれはあれで俺の肥しになってるし」

屈託ない笑顔が覗いた。

「ところでお前さ」

「はい?」

ハンドルを握りながら、ちらっと横目でこっちを見やる。

「敬語やめる気ある?」

・・・・・・ないです。目線で返答。溜め息が返った。

「ならせめて下の名前で呼ぶとかは?」

 ・・・それも無いです。黙して返答。

「・・・お前な」

軽めに睨め付けられる。

お互いに好意を持っているのは確かでも恋人じゃない。あまり馴れ合いすぎると境目が無くなる。・・・私の杞憂。ひと呼吸置いてから口を開いた。

「今日だけでいいなら」
 
今度は向こうが黙った。それから大きく肩で息を吐いて。

「いいよそれで」

不承不承って顔に大きく書いてある。思わず笑ってしまったらちょうど信号待ちで。伸びてきた腕に掴まって噛みつくようにキスされた。
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