イミテーションラブ
ゆったりと泳ぐ魚を見ながら、魚の名前と説明の入ったプレートを確認する。
すぐに見つけることができる魚もいれば、砂の底で動かなかったり、水槽に作られた岩の陰や置き木の隙間で、探さないと分からない魚もいる。場所によっては大きなガラスで覆われて、魚が悠々と群れを成しているのを見ることができる。
私は特に熱帯魚の綺麗な色が好きだったりする。
「…なんか凄くきれいだね」
「飼ったことある?」
「金魚なら昔、飼ってたよ」
「俺んちも。実家の親が飼ってた」
「それなら、うちの家もだ」
歩きながら他愛もない話。

「この魚、不細工すぎる!」
「あははっ本当だ」
「こいつなんかキモ怖!」
「分かる!」

笑わせようとしてるのか、気を使うのが上手いのか、私を飽きさせず楽しませてくれる。
女性を扱うのに慣れているのかもしれない。
会社で田崎涼介がなぜ人気があるのか分かった気がした。顔だけかと思ったら、それだけじゃない魅力があるのだ。
もしも私が広瀬さんを好きでなかったら、気持ちが傾いていたかもしれない。
自分を気遣って優しくされたら勘違いしそうだ。
それに昨日の…
思わず赤面してしまう。
昨日から続く田崎との一夜を思い出してしまったのだ。
キスをする時に見せる顔は、いつも見ている田崎の顔じゃなく、なんか変に色気があって正直戸惑った。女性をその気にさせる雰囲気を作り出すのが上手いのかもしれない。

私もその一人だけれど…

それに昨日の件での気まずさが今日のデートで払拭されればと思う。同僚だし、毎日の様に顔を合わすわけだから、避けては通れないのだ。
「何、どうした?」
「ううん、なんでもない」
考え事をしていた私を田崎が敏感に感じ取る。昨夜の事を思い出してたなんて、恥ずかしくて言えない。
「あっちも見よう!」
誤魔化しながら田崎の袖を引っ張って、隣のゾーンへと移動した。




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