イミテーションラブ
チョコを机に置いた後はいつも通りの業務にもどった。仕事にも慣れてきたから広瀬さんに指導してもらう量も随分減ってきた。
帰り際になるとトラブルも落ち着き、職場の雰囲気も落ち着きを取り戻した。
「お先に失礼します」
仕事にキリをつけて、帰り支度をする。
立ち上がって、職場から出ようとした時
「城山さん」と声が聞こえた。
後処理でまだ残っていた広瀬さんだった。
「チョコ、君だよね?」
チョコが入っていた袋を持ち上げて、確認するように私に見せる。
「あ、はい。疲れた時に食べてください」
何でもないようにそれだけ言ってペコッとお辞儀をした。
「これ…城山を最初見た時、どっかで会った気がして思い出せなかったけど…この店で働いてたか?」
コクリと頷いて返事をした。
「ここの店に行った時、いつもこのチョコ買ってたから…ありがとう」
一瞬自分に向けて微笑んだ広瀬さんに、ドキリとした。
カッコいい人は笑顔も魅力的だなと思った。
心の中だけ広瀬さんに惚れ直しながら、応援したい気持ちだけ伝えたいと思った。
「あの、私はいつも仕事で落ち込んだ時や失敗した時に甘いもの食べると癒されるというか…その…」
言いたいことが分かったのかフッと広瀬さんの表情が和らいだ。
「今日のトラブルの件はなんとか先方にも納得してもらえたから大丈夫、心配かけたな」
「いえ、ではお疲れ様でした!」
挨拶を交わして、職場を後にする。
自分の事を憶えてくれていて嬉しかった。
会社で再会して特別に感じたのは自分だけで、広瀬さんにはすぐに思い出してもらえなかった存在でも、今日の件で少し親しみやすく感じた。
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