イミテーションラブ
「ふう…」
溜息をついてPCの画面を眺めながら、指先を動かす。考えごとがあると集中できない。
いつもお昼時に顔を合わせてランチして…の繰り返しで田崎が他部所である私のフロアまで来てくれるばっかりだったけれど、私は田崎が働く上の階には足を踏み入れたことがない。
フロアが違うと業務で用事がある以外は関わらなかったりする。
他の先輩方は仕事の範囲が広いからそんなことはないけれど、新入社員としては今やってる補助的な業務はこのフロアで完結してしまう。
もちろん田崎とはランチの時に会えるけど、仕事中の田崎の様子をチラッと見てみたいと思った。
こんな風に考えるようになったのは、田崎で頭が一杯になった証拠なんどけどね…
好きになると相手のことを知りたくなるのかもしれない。
立ち上がってPCの画面を暗くして、用事があるふりをして席を離れた。
エレベーターで一つ上の階のボタンを押す。
書類を封筒に入れて田崎に渡す振りをすれば、別に変じゃない。
そう自分に言い訳して、少し田崎をびっくりさせようと思った。
エレベーターが開いて、忙しくするの人達がカウンターを挟んで見えた。
ここの階は下のフロアよりもザワザワしていて、
電話のやりとりをしている声などで、活気に満ちている。
部屋の角で数人の男女が立って話しているその中に田崎を見つけた。
驚かそうと田崎を真横に見ながら少しづつ近づいていく。
仕事の話でもしているのかと思って耳をすませていると、話が聞こえてきた。
田崎が女性を見つめながら照れ臭そうに笑っている。
「…だから愛里先輩は可愛いですって、俺好きですから本当に!」
「じゃあ田崎、今日から彼氏だな〜」
「大歓迎っすよ!愛里先輩は料理上手いし、綺麗で優しいし彼氏になれたら最高ですよ!!」
「おおーー!言ったな〜責任取れよ〜あははは」
盛り上がる声が大きくなって、二人を冷やかす言葉にショックを覚えた。
田崎に気が付かれる前に手前の机でさっと曲がるとまたエレベーターに乗った。
ボタンを押す指が少し震えてる気がする。
心臓かバクバクと激しくなっていて、動揺しているのが分かった。
そう、聞き違いなんかじゃない。

…好きっていってた…


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