イミテーションラブ
ここの蕎麦は美味しい。
目的の蕎麦を舌鼓しながら軽く雑談会。
仕事に慣れたの?とか、上司は優しい?とか、先輩の教え方はどうなのかと、話題は尽きなかったりする。
「城山の指導役って誰?」
麺を汁につけながら田崎涼介が美味しそうに蕎麦を頬張る。
「広瀬さんだよ」
「あ〜あの人ね、どう?」
「どうって?」
「指導が厳しいって噂だけど」
「確かにチェック厳しいですけど、普通に優しいかな」
「ふーん、指導係って女の先輩じゃないんだ。」
「私の場合、結婚してもうすぐやめる方の引き継ぎもあるから今は覚えることが多いよ」
「へぇ、その人って厳しい?」
「まあまあね」
私と田崎が話してると割って入るように英里奈先輩の顔が近づいてきた。
「そうそう、広瀬ってやばいよね〜」
英里奈先輩が付け加えるように広瀬さんの印象を語り出す。
「スポーツやってるのかな?身体を鍛えてるって感じでスーツが似合うよね、広瀬って!」
「分かります!」
私が同感すると、前の席に座ってる田崎が自分を指差す。
「ここにもスーツの似合ういい男いますけどね」
「どこどこ?あ、あそこの人ね!」
「あはは、本当だ」
わざと本人無視して田崎涼介をからかう英里奈先輩と私。
田崎はムスッと不快な表情を見せる。
「あのさ同期なんだし、城山だけでも優しい言葉かけろよな」
「…意味不明」
「それにそんないい男には絶対彼女いるって!」
「……」
痛いとこをついてくる田崎に返す言葉がなかった。
「彼、1年前くらいに彼女と別れたって聞いたけど今はどうなんだろ…忘れたのかな…」
英里奈先輩が思い出しながら箸を動かす。
「そうなんですか?」
「うん、本人はあまり話さないけどね」
広瀬さんに特定の彼女がいないと聞いてホッとした。
「今もいないといいな…」
心の声が漏れて、田崎涼介の眉間がピクリと動いた気がした。

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