桜吹雪の中で


「翼はね小学校の時いじめられていたの。」

私は薫さんの苦しそうな表情を見ながら
話を聞いた。

「大人しくて誰とも関わらないからその対象になっちゃうんだよね。小学生って単純だからなのかな…

でもね、仲のいい子はいたの。
だけど翼のいじめを庇ってくれたその子はね、次のいじめの対象になってしまった。

翼はその子みたいに庇うことは出来なかった。

中学はいじめっ子と違う学校になったから、いじめはなくなったけど
仲良かった子とも離れ離れでね…

その頃から、翼は心ここにあらずって感じで
誰かと仲良くしようとはしなかった。」


優しい小野くんがいじめられていたことに
少し動揺していた。

私は水を一口飲み話を聞き続けた。


「唯一、仲良くしてたのは
長期休みにうちに来てた、道流なんだよね。

道流もさ周りに敵を作る性格だからさ…


多分、そんな二人だから
二人ともお互いを特別に想うようになってた。」


「え、それって『好き』ってことですか?…」

胸がざわついた。
苦しくなった。

「いや、違う!!
翼は恋愛というか…妹みたいな感じかな…
道流の方は分からないけど…」

少し納得出来なかったが
安心はした。

「んで、高校上がって演劇部に入れて
多少、周りと仲良くするようにはなったけど

やっぱり、まだ本当に仲良く出来る人がいなくてね…」


薫さんがくるっとイスを回し、私の方を向き、私の手を握った。

「薫さん?…」

びっくりした。
けど、薫さんの握る手は強かった。

「菜美ちゃん…

菜美ちゃんが翼と仲良くしてくれて本当に嬉しかった。
あいつはすごい変わった。毎日明るい。

本当に…

本当に…

ありがとう!!!!」


『ありがとう』

その言葉は店内に響いていた。
ちらっと横目でおじさんの顔を見たら、おじさんも驚いていた。

すごく、すごく嬉しかった。



「薫さん、私こそありがとうです。
小野くんの話聞けて嬉しかったです。
ありがとうございます!」


二人で顔を合わせて笑いあった。


あ…
お姉ちゃんがいたら
薫さんみたいな人がいいなぁと思った。


薫さんの弟思いの優しさが何処と無く
小野くんに似ている気がした。

< 47 / 84 >

この作品をシェア

pagetop