『ドルチェ♬』
『よしっ、いい感じだな…、』

『うん、けっこう今のはグッてきたよな!』

演奏練習が終わり持参のタオルで汗を拭う奏汰と幼馴染でドラム担当の裕翔の会話にホッと一息をついたのもつかの間…

『まだ、ダメダメでしょっ!』

と、キーボード担当の里華ちゃんの声が部室内に高らかと響き渡ったのに私は、肩を竦めた…、

それもそのはず、彼女の高めのポニーテールがふわりと揺れその羨ましいほどのクリクリの目で捕えられたのはベースを抱えて突っ立っていた私だったのだから。

『ベース!今日で何度目?なんでいつも途中で音はずしちゃうの?』

相変わらずの厳しい指摘にたじろいだ私は、

『ごっ、ごめんなさい…』

と少し後に後ずさりし、彼女との距離を取りながらボソボソと謝罪し頭を下げた。

里華ちゃんは、3歳の頃からずっとピアノを弾いていたし、裕翔はずっとドラムに憧れてドラムを自分の貯金で買って小学生の頃から練習し始めていたし

奏汰は、父親がギターを弾いていてずっと隣で見てきたって言うほどみんなは私と違い小さい頃から楽器に触れ合ってきていた。

けど、私が楽器に…ベースに触れたのは実際、このバンド部に入って初めてだったからまだみんなより経験は浅いし、
未熟者だから少し引け目を感じてしまいつい、厳しいことを少し言われただけでビクビクしてしまう。

『…里華お前…少し厳しすぎだって…』

そう、私を庇ってくれたのは幼稚園の頃からの幼馴染、裕翔で見た目は茶髪に片耳ピアスで身長も高くて少しチャラいけど優しい彼はいつも私を庇ってくれる。

そんな、私の前に立ち里華ちゃんと向き合う裕翔も、

『裕翔こそ、スピード今日ズレてなかった?1テンポ早いなって思ってたんだけど…』

里華ちゃんの正確な指摘を受け図星だったのか

『うっ…』

と顔を歪ませた。

私だけが指摘されてたのにそれを庇ってくれた裕翔も指摘されてしまい少し罪悪感を覚えた私は、裕翔にも

『ごめんね…』

と謝り視線を下げた…

裕翔の目をまっすぐ見れる程の自信が私にはもうほとんどなかったから。
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