私の愛しいポリアンナ



ひどく汚れた、というよりは手入れの行き届いていない部屋でベッドに伏せていたタツヤ。
ぼんやりとした表情で口を開けていた。
濁った瞳。
もう何も見えなくなっているのだろうな、と秋は思った。
一応ノックはしたが、もう一度「入るよ」と告げてから足を踏み入れた。
むっとしたなんとも言えない臭いが漂っていた。
風呂には入れてもらえているのだろうか。
タツヤはかすかに顔を動かし、秋の方を向いた。
距離を測るように、一歩一歩慎重に近づく。

「こんにちは。設楽秋だ。覚えてるか?鹿川で一度会った」

秋は1メートルの距離をベッドから開けた場所でそう言った。
タツヤの表情は動かない。
けれど、ゆっくりとだがその頭で何か考えていることは分かった。

「したらさん」

舌ったらずな話し方。
タツヤの話し方だ。
そこは変わらないんだな、と秋は思った。

「あれからどうしてるのかと思って」

和やかな雰囲気を出しながら秋は言った。
できるだけ優しく、なんてことないように。
何も見えないはずの目がギョロッと動く。

「なんで?」

タツヤはそれだけ言った。
なんで、ただ一度二度会っただけの秋が訪ねてきたのか不思議でしょうがないといった顔だった。
秋はタツヤの質問を無視した。

「今、どんな気分?」

「きぶん、気分、最悪だよ。なんにも見えないんだ。夜っていう暗さじゃなくて、ちょっとした色みたいなのは見えるんだけど」

野次馬根性丸出しの最低な質問をした自覚はあった。
けれどタツヤは怒りもせず、淡々と素直に答えた。
だんだんとタツヤの口角が上がっていく。


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