私の愛しいポリアンナ





気温25℃の過ごしやすい土曜の午後。
テレビでは料理番組が垂れ流され、テーブルの上には食べかけの料理が残されている。
28歳の秋が手を取った女性は、お世辞にも美人とは言えない相手。
1年前、仕事に邁進していた秋。
その頃には想像もしていなかった未来が、今ここに広がっていた。

国の観光誘致政策のカジノに一枚噛んだこと。
薬物中毒の男に会いに行ったこと。
幼児性愛の男の話を聞いたこと。
今まで気にも留めなかったタイプの女性に、恋に落ちたこと。

思い描いた「理想の生活」とはかけ離れた未来だ。
それでも、悪くないと秋は思った。
どうせ一度の人生だ。
予想通りじゃつまらない。
心地よい人間関係だけじゃ俺の視界は狭いままだ。
悪くない。
刺激的で、悲しくて、目を閉じたくなるような現実にも会う。
それでも、秋にできることは目を見開くことだけだろう。
誰だってそうだ。みのりだって。目を見開いて現実を見つめることは勇気がいるが、幻想に逃げたって何にもならない。

みのりが愛したポリアンナは彼女が生み出した幻想だったが、今それが消えようとしている。
不公平で不平等で思い通りにならない現実を、みのりは目を見開いて受け止めようとしている。

「設楽さん」

顔を上げたみのり。
目が合う。
黒い瞳が秋を見つめる。


1人で見る甘く優しい幻想は終わった。

これからは、辛く悲しいことも覚悟の上の現実を、2人で見つめていくのだ。











< 189 / 189 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:8

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

拝啓ヒトラーさん
okitamiku/著

総文字数/16,567

恋愛(その他)26ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
  「生きるに値しない命」 1940年 ナチスドイツの安楽死計画が実行 知的障害者と精神障害者 7万273人がガス室で殺害された。 ナチスドイツによる劣等種安楽死のフレーズは 「生きるに値しない命」
千の春
okitamiku/著

総文字数/22,265

恋愛(純愛)42ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
尊貴な学位も想像力も、 その両方を足したものも、 天才の誕生には至らない。 愛、愛、愛。 それこそが天才の神髄なんだ ・・・モーツァルト 神さまは、千春を連れて行った
不滅の妖怪を御存じ?
okitamiku/著

総文字数/224,587

ファンタジー491ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「空にある星を ひとつ欲しいと思いませんか?」 戦後の小説家、坂口安吾のピエロ伝道者はその一文から始まった。 そうして星を取ろうと竹竿を振り回す男が出てくる。 終わりの締めくくりはこうだった。 「忘れな草の花を御存じ? あれは心を持たない。 しかし或日、恋に悩む一人の麗人を慰めたことを御存じ? 蛙飛び込む水の音を御存じ?」 これは、その坂口安吾のピエロ伝道者から始まる話。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop