初恋のクローバー


『え………風結?』


『えっ!?風結が来てるの!?』


『まじで!?』


1年くらい足を運んでいなかった放課後のグラウンドに行けば、目を丸くした仲間たちが次々に集まってきた。


私を可愛がってくれていた先輩たち。


気まずくて廊下で顔を合わせられなかった同級生たち。


幼なじみのヒロ。


懐かしいみんなの顔が、一斉に私を見つめてくる。


私はその視線を受け止めてから、頭を下げて全員に聞こえるように大きく口を開いた。


『勝手にいなくなって、本当にすみませんでしたっ!

……ずっとタイムが縮まらなくて1人で焦って、みんなの応援をまっすぐに受け止められなかった。

そんな自分も、走ることも嫌で、1年前の私はここから逃げ出してしまいました。

でも今またもう1度、みんなと一緒に走りたい。みんなと、同じ場所を目指してこのグラウンドを駆けていきたい。

だからまた、私を仲間にいれてくれませんかっ?』


後悔、申し訳ない、恥ずかしい。


色々な感情が混ざった自分の言葉は、静寂の訪れた空間に消えていった。


やっぱり、許してなんかもらえないよね。


こんな自分勝手なやつ、誰だって呆れちゃうよね。


心の中で自分に嘲笑していると、頭上で何やらザワザワとした空気が流れていく。


『……?』


不思議に思って顔をあげてみれば、目の前には見たことのない部員が数人いた。


『えっと…?』


キラキラと目を輝かせるその子たちに首を傾げていると、その中の1人が控えめに口を開く。


『あの……もしかして、興野風結先輩ですか?』


『え?あ、はい。そうです……』


中学の時以来呼ばれていなかった「先輩」という単語に少しの緊張を覚えながら、私はなぜか敬語で返した。


するとその瞬間、その子たちの瞳がさらに輝きを増して歓喜のような声が上がった。

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