俺様上司にチョコのプレゼント
「今年からバレンタインの義理チョコはやめます」
とある女性社員の思い切った一言により、長年の悪しき習慣は絶たれた。

「今年はチョコもらえない?楽しみにしてたのに」
給湯室でポットに水を入れていると、いつの間にか近付いてきた同じ部署の男性社員が悔しそうに呟く。

「そうですよね……わかりました、一人分だけこっそり買ってきます」
「やった!!」

一人分ならお財布にも優しいしこんなに喜んでるなら……いいよね。

「ルール違反だろ」
どこからか声がして自然と背筋が伸びる。

振り返ると直属の上司が缶コーヒー片手に立っていた。
若手なのに出世コースに乗り、先日部長に昇進したばかりの三森さんだ。
顔もカッコいいのに浮ついた話ひとつなくて、それがますます男を上げている気がする。

「女を口説く暇があるなら、企画書仕上げてこい」
「はっ、はいっ!」

鬼上司ともっぱらの評判の三森さんが睨みをきかせると、男性社員は大慌てで給湯室を出て行った。

口説くとかそんなんじゃないのになあ。
黙ったままポットを持って行こうとすると、三森さんに引き止められた。

「あいつにチョコ渡すつもりか?」

怒られるのかな……そうだよね、ルール違反だよね。

「それは……やめます。なしになったんですもの、おかしいですよね」

「そうとは言ってない。やめたのは義理チョコだろ、本命チョコならいいんじゃないか?」

「えっ……」

予想外の言葉に固まっていると、三森さんがフッと笑った。

「そこまで俺も鬼じゃない」

「あの方とは、そんなんじゃないですよ。チョコがないのは寂しいって言うから……」

三森さんの表情が一瞬歪んだ。

こんな私の決断は愚かなのだろうか。
言いながらだんだん辛くなってくる。

「へぇ。だったら俺も欲しいって言えばもらえる?」

これはなんの冗談?

気付けばポカーンと口が開いたままになってしまっていた。

「なんてな……図々しいか」

「そっ、そんな……そんなこと……」

これはチョコの催促だよね。

ということは……。

「義理ですけど……」

恐る恐る言ってみる。

「まあ……それでもいい。くれぐれも他のやつにはバレないようにな」

少し照れながら言う三森さんに胸がキュンとした。

今日から、三森さんを見る目が変わりそう。

……もしかして、あたしのことを?

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