不埒な先生のいびつな溺愛
またいつもの微妙な空気が流れ始める。

先生は怒った顔をしてはいなかった。キッチンに立ち尽くしたままこちらを見ないから、詳細な表情は確認できない。
しかし、彼が怒っていれば私はすぐに分かるけれど、今の先生の表情は読み取れなかった。

「美和子、俺は……」

先生の声は水の音のせいでよく聞こえない。

ジャー、と、シャワーになっている蛇口の水を出しっぱなしにしたまま、先生はボーっとそれを眺めていた。いつもに増して様子がおかしい先生のことが心配になる。

私も立ち上がってキッチンへ向かい、流しに立っている先生のそばへ駆け寄った。

「すみません、先生、私やりますから」

先生の腕に触れても、彼の体は動かない。

「美和子。さっき、俺にお前のことどう思ってるかって聞いたよな」

近くに寄ると、先生の言葉はクリアに聞こえてきた。

「え、ええ」

先生は、蛇口の水を止めた。そしてやっと私の目を正面から見た。

「俺はお前のことは、生身の女だと思えねえんだよ、美和子。お前はずっと、小説の中の人間みたいだから」
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