不埒な先生のいびつな溺愛
彼女が戻った日
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看護師によるエンゼルケアが終わり、私たちは待合室にいた。

先生は、遠方に住んでいるという叔父さんと、この日が来たときのために選んでおいたという葬儀屋にテキパキと電話をかけていた。

電話ではやたらと「そちらに任せます」という言葉が目立った。本当は自分では考えを巡らせることが難しい精神状態なのかもしれない。

「すぐ葬儀屋が病院に来る。親父は実家に運んでもらう。美和子、悪い、ここまで付き合わせて」

先生が謝るなんて、余裕がない証拠だ。

「お家に着くまでそばにいます。いさせて下さい」

葬儀屋を待っている間、直近のことを考えた。

先生のご実家に向かう前に、編集長には先生にご不幸があった旨の電話を入れよう。ご遺体を実家に運んだあと、おそらくそこでお通夜と葬儀の日程を決めることになるだろうから、夜が更けてなければその日程も編集長に伝えなければ。

そのあとは、葬儀屋は引き上げてしまう。

もし遠方の叔父さんたちが今日中に到着できないのなら、私は先生の家に泊まらせてもらおう。先生を、眠ってしまったお父さんとふたりきりにはできない。
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