不埒な先生のいびつな溺愛
病院での手続きと、葬儀屋の手配が済み、私たちは運ばれていくご遺体とともに、先生の実家へと向かうこととなった。先生は付いてこなくていいと、乱暴ではなく意気消沈した言葉で言い続けていたのだが、私はそれを強引に押しきった。

ご遺体を乗せた寝台車には先生だけが乗っていき、私はまたタクシーで後に続いた。

到着すると、昔見たまま、先生の実家は大きくて立派な家だった。

知らなかったが先生の実家には個人契約のハウスキーパーさんがおり、先生は彼女にも連絡を入れたようで、私たちよりも先に家に到着していた。

中年の優しげな奥様で、すでにお父さんのための部屋を整えて準備をしてくれており、ご遺体を乗せていた寝台車も駐車し、すぐに作業に取りかかった。

「隆之くん、大変なことになって……気をしっかり持たなきゃね」

「坂部さん。すみません、来てもらって」

先生は仕事では見せないほどきちんとした挨拶をしていて、今まで私が見ていた先生とは違いすぎて、少し所在ない気持ちになった。

ハウスキーパーさんが側にいてくれるのなら、私は今日はここに泊まる必要はない。

そもそも、こういうとき、仕事上の付き合いである担当編集というのは、どこまで先生に関わるべきなんだろうか。

心配でここまでついてきたはいいものの、明日になれば叔父さんご一家も来るのだろうし、ハウスキーパーの坂部さんにも、あくまで来客者という立場の私に気を遣わせてしまうだろう。

葬儀屋さんはお父さんを寝かせて着替えを済ませ、同時に手早く宗派の聞き取りと葬儀の日程についての打ち合わせをし終えると、また明日にご連絡しますと言ってすぐに帰っていった。

坂部さんはお茶を淹れに台所へいった。

「先生、あの、何か私にできることがあればおっしゃって下さいね」

ない、とは言わなかった。
それは先生の優しさかもしれない。でも実際、きっと私にできることなどなかった。
< 78 / 139 >

この作品をシェア

pagetop