不埒な先生のいびつな溺愛
一ヶ月前に受けた校内模試の結果は、小さなピラピラの紙っぺらで返された。

「美和子ぉ、模試どうだった?」

休み時間にそう笑顔で尋ねてきたのは、友人の絵里だった。絵里に悪気はないのだが、成績が昇り調子の彼女と話すことは、気が滅入りそうだった。

「……下がった」

「まじか〜。私もね、数学は下がった」

絵里は自分の模試の結果を見せた。
数学が下がったこと以外、彼女の成績は申し分ない。そもそも絵里の志望校は数学を使わない。

「今回さ、校内模試の一位、久遠くんじゃないらしいよ」

絵里は毎回、私は全く興味のない、“久遠くん”という人の話をする。

久遠くんというのは、理系の特進クラスにいる人で、私はまったく関わりはない。

しかし校内テストではいつも一位で目立っていて、背も高く、あまり覚えてないが、たしか顔も格好いいとか。神に二物も三物も与えられた典型だ。

たくさんの女子が、密かに彼に憧れている。

「あーあ、久遠くん、愛想良かったらめちゃくちゃモテるのにね。あんなにイケメンなのに性格悪いとかほんと勿体ない」

「そんなに性格悪いって、どんなふうに?」

絵里は自慢のつり目を、さらにつり目にして見せた。

「もう、ずっとこんな。人のこと睨んでるし、無愛想だし、なんか誰にも興味ありませんってカンジで無関心なの。言い方が攻撃的で口も悪いから、皆話しかけないんだって。たまに告白する勇者もいるけどさ、『俺アンタのこと知らねえから』ってバッサリだって!同じクラスの女子にだよ?」

「……へえ〜」

とりあえず絵里の言い分は全部聞いたものの、私は、果たしてそれは彼が“性格が悪い”という結論になるのかは分からなかった。

皆がその久遠くんに色々期待をして、それを彼がことごとく裏切っているということは確かだが、それって、誰の責任?

「なんか、久遠くん、受験勉強しないらしいよ。だから成績下がってるんだって。理系の子が言ってた。ずっと本ばっかり読んでるって。理進クラスは受験モードだから、さすがに士気が下がるって嫌がられてるっぽいよ」

受験勉強をやめて本を読んでいるという久遠くんについて、私は初めて興味を持ったが、同時に、羨ましくて、彼のことが疎ましくなった。

彼と同じクラスの人たちの気持ちがよく分かる。
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