バレンタインの生贄

「バレンタインの起源を知っているのか? ローマ帝国時代にバレンティヌス司教が祭りの生贄に絞首刑にされた日だ。そんな日にチョコを送って愛を語るなんてバカげている」

「そんなのもう知ってる」

 その話は、小五の時に隼人から既に聞いていた。だから私は、彼にチョコをあげた事なんて一度も無い。まるでバレンタインの呪いにかかってしまったかのように。

 だけど今年は……


「だから、私はバレンタインの生贄になるの」


 私がそう言うと、彼は驚いて目を見開いた。

 親同士が決めた婚約だけど、私は隼人がずっと好きだった。愛してる、と言った事も言われた事も無いけど、彼も同じ気持ちなんだと信じたい。

 確かめたかったんだ。バレンタインの生贄として、隼人との愛を。

 彼は私の頬にそっと触れると、口元に笑みを浮かべた。


「じゃあ、俺は生贄を甘んじて受け入れよう」


 そう言いながら私の唇を塞ぐ。

 ああ私は今、生贄として隼人に食べられるんだ……

 そんな事を考えながら、私はそっと目を閉じた。





【おわり】
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