帰り道はスキップ

「妻は、俺が家事に手出しするのが嫌だったらしい。自分より料理が得意なのも、気に入らなかったみたいだ。自分では自覚してなかったが、どうやら俺は男のくせに細かいらしい」
「ふふっ」
「笑うところか?」
「ごめんなさい、家でも仕事中と変わらないんだなと思って」

褒められたのかよく分からない発言なのに、まるで喜ばしいことを告げるように笑った彼女に、胸の奥がこそばゆくなった。

どこか、おかしいなと思う。
計画とまるで違う。

今日、ここへ彼女を連れてきたのは、血迷って俺なんかに告白してきた彼女を、幻滅させるためだ。
妻に逃げられたのは噂通りだが、逃げられた理由はまるで違う。
家事が得意でなかった妻は、俺が代わりに家事をこなすのを、いつもプレッシャーに感じていたのに、別居を切り出されるまで、それに全く気づかなかった。
俺は愛妻家なんかじゃなくて、むしろ妻を追い込んだ張本人だ。

そうはっきりと分かるように物的証拠まで用意したというのに、彼女は俺に軽蔑の眼差しを向けるどころか、穏やかに微笑みながら弁当をきれいに平らげた。
ごちそうさまでしたと手を合わせた後、彼女は勢いよく宣言した。

「明日から自分の分は自分で作りますね!」

覚悟しておいてください、と言わんばかりにニッコリと笑った彼女を見て、思わず狼狽える。

「そ、そういう訳では…」
「慌てても、もう遅いです。私、今日ので完全にスイッチ入っちゃいましたから」
「ま、まて…」
「だって、これって、本当の俺を見てってことでしょう?私にとっては、最高の返事ですよ!」

そう来たか!と頭を抱える暇を俺に与えずに、彼女はそっと俺の耳に顔を寄せて囁くように告げた。

「誰かに見つかるとまた噂されちゃうから、先に戻りますね。じゃあ、また明日」

スキップしそうなくらい弾んだ足取りで帰って行く彼女を見送りながら、はたと昼休みが残り少ないことに気が付いて、弁当の残りを慌てて食べる。


やっぱり。
誰かと食べる飯は美味いなと感じたのは、この際気のせいだと思おう。



───数ヶ月後。

「小柳さん!卵焼き焼けました?」
「うん、そっちは?」
「ばっちりです。ほら彩りも完璧!」

意外にも料理好きだった彼女と、一緒にキッチンに立って弁当を作る日がくるとは。
この時の俺は全く予測していなかったのだ。

-END-
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