16の、ハネ。

✳︎

冬の朝。
淡く白い朝靄が辺りを包む。

私はそんな景色をゆったりと眺めたい気持ちを抑えて、駅までの道を急いだ。


朝は、街も、人も、みんな忙しそうだ。

……まあ、私もその忙しいものたちの一人なんだけどね。


そんなことを考えながらも、私は歩調を早めた。ローファーのカツ、カツ、カツ、というキレのいい音を鳴らしながら、テンポ良く歩く。


駅に着き、少し長い階段を駆け上り、改札の前でカバンから定期を取り出す。
定期をかざすと、ピッ、という可愛らしい電子音が鳴った。

なぜだかわからないけど、私は昔からこの音が好き。もっと言えば、小学生の頃の「ピヨピヨ」の音の方が好きだったりする。


そこで、ちょうど電車が到着するアナウンスが聞こえてきたので、私は慌てて階段を駆け下りた。私だけじゃなく、周りの人も同じように急いでいる。


滑り込むように電車に入り込み、肩で息をしていると、どこかでクスクスと笑い声が聞こえた。

失礼だな、とは思ったが、弱気な私は声の主を探すなんてことは出来ず……。


居心地が悪かったので車両を変えようと思ったそのとき。

「音羽ー、おはー」
いきなり名前を呼ばれて、ビクッと肩を揺らした。

後ろを見ると、陽人が「あ、今の韻踏んでた!」と満足そうに呟きながら笑顔で立っている。



どうやらさっきの笑い声の源は彼であるようだ。





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