Be My Valentine.
「来てくれたのか? 都心まで出てくるのは大変だっただろう? 言ってくれたら、迎えに行ったのに」


彼の声のトーンが跳ね上がった。
一気に熱が上がったような、こっちの胸まで温かくなる。


「あ……いえ」

「ひょっとして、チョコレート?」

「はい……でも、手作りだから、たいしたものじゃ」

「ああ、君。彼女と来月の結婚式の件で話があるから、もう下がってくれ」


けっこう厳しい声でびっくりした。
女性のほうは、一瞬面白くなさそうな顔をしたが、すぐに表情を消してそそくさと出て行く。


「いいんですか?」

「社員からは受け取らないって言ってるんだけどね。自分は特別と思ってるのかもしれない。でも、僕の特別は君だけだから……手作りチョコか、生まれて初めてだ」


ふわっと微笑んだあと、いきなり私の手を引いてソファに座った。


「きゃっ!?」


倒れ込むような勢いで、彼の膝に乗っかってしまう。


「食べたいな」

「チョ、チョコ、ですか?」

「できれば君ごと」


チョコレートが溶けてしまいそうな目でみつめられ……。


「今さらですけど、私……あなたのこと、好きです」

「好き? それは残念――僕はひと目で君を愛してしまったのに」


その日初めて、私は彼の唇がチョコレートより甘いことを知ったのだった。


                          ~fin~
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