仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
プロローグ
「新規オープンのチャペルとブライダル部門のプロモーションは、一人の女性モデルに重きを置いて、うちのカラーを全面に押し出したパンフレットや映像を制作したいと思っています」

「そうなりますと人選は重大ですね。起用モデルのイメージが、『Eternita(エテルニタ)』のイメージそのものになりますから」

会議室では当事務所の社長を前に、王子様のような風貌の美青年が、真剣な顔つきで資料を広げていた。


亜麻色の髪に、琥珀色の瞳。容姿端麗という言葉がぴったりの、甘いマスク。
長い指先で資料をめくる青年の崇高な美貌は、クライアントというより俳優かアイドルと言った方がしっくりくる。

首元に華やかなゴールドのアスコットタイを結び、上品なスリーピーススーツを着こなす英国紳士のような姿には、艶やかな大人の色気があった。

椅子に座った状態でも、その脚の長さから、かなりの長身であることがわかる。


いつもどこを飛び回っているかわからない『ペルラ』の女社長が、こうして事務所で打ち合わせをしているなんて、彼は余程重要なクライアントに違いない。

湧きあがる好奇心が私をその場に縫い止める。
足音を立てないように壁に体を隠し、こっそりと会議室の中を覗きこんだ。
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