仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
第五章 独占欲は誘惑を望む
慧さんの婚約者としての生活も既に一ヶ月が経過しようとしていた。
春めいていた五月も昨日で終わり。季節は順調に夏へと向かっている。

六月は海外での撮影を含むため、先週からカフェでのアルバイトは休職することにした。

花嫁役は正式に私で継続となり、コンペの結果と言われて『ペルラ』側も認めているようだった。その証拠に通常レッスンだけでなく、打ち合わせをかねた個人レッスンをしてもらえることになった。

最近は平和に『エテルニタ』の撮影をこなしている。
撮影やレッスンがない日は、慧さんの家で少しばかりの家事をして過ごした。


今夜の夕食は慧さん行きつけのフレンチレストランへ行くことになり、彼が仕事を終えたあとに私を迎えに来てくれた。


夕食から帰宅した後。

運転手を務めてくれた藤堂さんが「こちら来月発売のものです」と、黒革の鞄から一冊の雑誌を慧さんへ差し出した。

慧さんはスーツのジャケットを脱ぎながら、全く興味がなさそうな顔でそれを一瞥する。

「ああ、それか。適当に置いといて」

「かしこまりました」

藤堂さんは、雑誌をソファの前にあるセンターテーブルの右端に置く。

左利きの慧さんの邪魔にならないように配慮された動きに、流石秘書と尊敬の眼差しを送った。
< 132 / 195 >

この作品をシェア

pagetop