仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

「緊張、してるのか？」

一緒に祭壇の前に立っていた小野寺さんが言った。新郎姿の彼の方が、どう見ても緊張している。
私はくすくすと笑いながら、微笑んだ。

「緊張はいつもしてますよ。ただ、このシーンで『エテルニタ』のウェディング広告の撮影も終わるんだな……と思うと、感慨深くて」

「そうだな。短いような、長いような、不思議な時間だった」

空は次第にネイビーに染まる。
太陽が燃えるように紅く染まり、とろけるように揺らいだ。いよいよだ。

「チェックオーケーです！」

「それでは、本番いきまーす！」

互いの立ち位置を確認する。貴重なサンセットの時間に失敗は許されない。

真剣な表情を消すように、一度軽く目を閉じる。

次に目を開けた時には、全身から溢れ出るように、花嫁として最高の気持ちを乗せた。


祭壇の向こう側にある窓には、最高のサンセットが輝いている。

ディレクターさんの声が掛かり、本番の撮影が始まった。