よくばりな恋 〜宝物〜
焦燥


紅と空斗が勤める河村製薬は、横浜に大きな研究施設を現在建設中だ。大阪の研究所は閉鎖され、研究職についている社員は来年ほぼそちらに異動となる。



入社して4年目の春、紅は入社以来ずっと総務部所属で頑張っている。

空斗との付き合いも4年目を迎えようとしている。

ドラマティックなことはないけれど、始まりがアレだった割にはそれなりに続いているのではないかと思っていた。


お昼休み、食堂に行こうとした紅のジャケットのポケットでスマホがブルブルと震える。

『今晩、寄っていい?仕事で遅くなりそう』

空斗からのメッセージだ。

『同期の女子会やし、わたしも遅くなる。11時には帰るけど。スペアキー持ってる?』

『持ってるから心配なし。みんなによろしく』


仕事や飲み会などで遅くなるときは空斗は紅の家に泊まる。京都の自宅まで戻るのが面倒だからだ。


一月もしないうちに別れることになるだろうと思っていた。

紅のいる本社と空斗のいる研究所は全く別の場所だ。それでも空斗の噂は本社の紅の耳にも入ってくる。
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