よくばりな恋 〜宝物〜


有り得ない!と紅は頭を振った。

トイレの前からほんの少し距離を取り、背中を向けて立ち尽くす。

誰かが来たらトイレの順番待ちをしてる風を装ってあげないとと思うのに微かに聞こえる女の子の声に逃げ出したくなった。


「水沢さん?」


呼ばれた声に顔を向ける。


どうした?と問いかけ側に寄ってきたのは斯波空斗だった。


「・・・斯波さん・・・」


名前の通り赤い顔を空斗に向けると、心配そうに歩み寄ってくれる。


「飲みすぎた?随分顔が赤いけど・・・」


そこでさっきから紅を悩ますあの声が聞こえた。

「あー・・・・・・そういう・・・」


すぐに合点がいったようで困ったように空斗が笑う。


「オレらの仲間の誰か?」


紅が壊れた人形のようにカクカクと首を動かした。


空斗が紅の頭にポンっと手を置いて「見張り、ご苦労さま」と言い、トイレのドアの前に立つ。


「なあ!誰かトイレ使ってる?ずっと待ってるんやけど」


空斗が言うと、中から慌てたような物音。
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