よくばりな恋 〜宝物〜


自慢ではないが紅には今までモテた記憶もないし、異性と交際したこともない。

「堪忍、あんまり素直で可愛いから」

綺麗な瞳を細めて堪えきれないと空斗が大笑いする。



一週間の研修の間、同期とは一通り話はしたけれど、100人近くいる同期の中で、地味な紅の名前をちゃんと覚えてくれていた。

彼の頭脳ならば全員の名前を覚えることくらい造作もないのだろう。

「〜〜〜〜〜〜笑い上戸」

「せやから悪いて」

そう言った空斗がまた紅の頭に手を置いて、よしよしと撫でる。

「戻ろうか、あんまり長いこといないと2人で何してたんやって話になるやろ」

笑いをなんとか押さえ込んだ空斗に促された。


後で女の子たちに自慢できるかも。
みんなどこか遠慮がちに空斗を見ていたから、至近距離で話せた紅はラッキーかもしれない。


「水沢さん、今スマホ持ってる?」


あと少しで宴会中の座敷というところで空斗に言われた。


「?持ってますよ?」


ジャケットのポケットから紅が取り出し見せる。

「連絡先交換しよう」


空斗がメッセージアプリを起動させて紅に差し出した。


「ああ、はい」


『Sorato』
紅のスマホに表示される空斗の名前。


何だかすごく貴重なものを手に入れたみたいだ。


「連絡、するね」


そう言って空斗がドアを開けて中に入った。



同期で飲むときにまた声でもかけてくれるのかな、紅はそのくらいにしか思っていなかった。
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