雨と制服とジャージ
先生はもう玄関にいて、私に早く出るように急かし、カウントダウンを始める。

「外は暗いぞ。急げ。5、4、3、2、1……」
「ちょっと待ってください、靴履けてないですから」

こんなの、遅刻ギリギリの校門近辺と同じシチュエーションじゃん!

「ゼロー。アウト」
「えーっ……」

靴の踵がやっと収まって、キャメル色の鞄を抱き上げて先生を見上げる。
すると、見たことないぐらい真剣な顔をした先生の、黒い瞳に私が映った。

「……アウトだよ。簡単に俺の理性吹っ飛ばせやがって」

ぎゅ、と私を抱くようにして、こめかみにキスが降る。くすぐったくて目を閉じたら、瞼にも。


「…………お前の気持ちが変わらなかったら、また、卒業してから来い。その時は、追い返したりしないから」


先生の私を抱く手に力がこもり、先生のジャージに埋もれる。

「いいんですか……あの、彼女さんは……」
「いねえよ。そこまで野獣じゃねえよ」
「あ、よかった……」


よかった。
先生、彼女いないんだ。


……よかった。
先生が、私に希望を持たせてくれて……。



ドアを開ける前に、引き寄せられるようにキスをした。

これはきっと、未来へ繋がるキス。


end
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