舞蝶~絶望を知った女総長~ ※コメディあるZE☆




─────〖side:市ノ川 裕翔〗






?「ぶっちゃけ、あの転校生何者?」


俺が父親のダメっぷりを目の当たりにした翌日の昼休み。

俺“ら”はいつものように屋上に集っていた。

いつもと違うことと言えば、いつもは中庭で昼食をとっている俺の仲間、桐崎 夜空(キリザキ ヨゾラ)が屋上に来たことぐらいか。

夜空は不良にしては珍しい黒色の髪と目で、いつも客観的な見解で“メンバー”を導いている。
あとは特筆するようなことはないが、強いて言えば女嫌いだと言うことくらいだろう。

そんな夜空に、何故ここに? と疑問の視線が貫くが、我関せずとばかりに夜空は口を開いた。


夜「あいつさっき、この校舎の四階から飛び降りて平然としてたぞ」


夜空の言葉にこの場にいる全員が目を見開く。

それもそうだろう。この校舎は普通の建物よりも格段に一階ごとの高さが高い。
ここにいる皆は平均的な建物だと四階ならギリギリ飛び降りて着地することができるが、この校舎となると別だ。

この校舎の四階は、通常の建物の六階の高さに匹敵する。

つまりあいつは、“俺ら”でも出来ないことをいとも簡単にやってのけたということだ。


?「確かに、何者なんだろうねぇ? 昨日もこの学校の堅固な校門ぶっ飛ばしてたし」


そう言ったのは天宮 楓(アマミヤ カエデ)。
水色の髪と水色の目が特徴的で、顔は女子のように可愛い。
クラスのムードメーカーでもある。
だが、喧嘩になれば凶暴な口調と態度になるという節もある、 “癒し系男子” だ。

そんな彼の言葉に、確かにそのような事もあったなと思い出す。
あの校門は理事長がかなりの金をかけているらしく、俺ら五人の力が合わさっても壊れるか微妙なところなのに、だ。

あいつは鼻歌交じりに壊していた気がする。


?「やっぱ、偶然で片付けられることやないからなぁ。オレもそいつの正体気になるわぁ」


この関西弁の金髪茶色目は赤坂 哲斗(アカサカ テツト)。
因みにエセではなく、本物の大阪生まれだ。


?「いやぁ、それにしてもあれは凄かったよねぇwww 俺びっくりしすぎて屁こいたわwww」

楓「うわ、やめてよ汚い。そんなことしてなかった癖に」


……このヘラヘラしたやつが謙臣 航也(カタオミ コウヤ)。
いつもと言っていいほどふざけている女好きだ。
聞いた話だと、つい先日スマホのアドレス登録者が300人を超えたらしい。
9割以上が女なんだと。

だがそれを俺らが責めたりしないのは、航也がお調子者の皮を被った寂しがり屋だと知っているからだ。
彼は昔に起こった悲しい出来事を忘れるために、わざと明るく過ごしているのだということを。


……まあ、今はこの話より例の転校生の話だろう。


裕「夜空、あの転校生……城ヶ崎悠の事を調べてくれ」

夜「分かった」


夜空は俺の言葉に簡潔に返事を返すと、持っていたノートパソコンを開き、操作し始めた。

実は、夜空はメンバーの情報担当だ。
ハッキングが得意で、世界のトップ五本指に名を連ねるほどのハッカーである。

今回の謎多き転校生の素性も、これで全て分かるだろう。

夜空がパソコンを弄り始めて十数分し、真剣にパソコンを覗き込んでいた夜空が顔を上げ、呆然とした様子で呟いた。


夜「無理だ。ガードがありえないほど硬すぎる」


これには俺を含め、全員のメンバーが愕然とした。


裕「つまり、その転校生の城ヶ崎悠ってのは、世界トップレベル、しかも夜空よりもハイレベルなハッカーなのか、もしくはそれが味方についている可能性が高いってことか……」

夜「あぁ……そういう事で間違いないと思う」


本当にあいつは何者なんだろうか……。


航「てぇか、そんなんなら本人に直接聞くのが一番良いんじゃねぇ?」

哲「せやな! それが一番合理的っちゅうもんや!」

楓「うん。ここで考えても答えは出ないだろうし、めんどくさいしね」

航「お前めんどくさいってのが本音だろ」


確かに、それが一番手っ取り早いか。


裕「よし、あいつを問い詰めるぞ」











────航「うへぇ、なんだあれ……」

楓「うわぁ、見てるだけで胃もたれしそう」


件の転校生を探し学校内をさまよっていた俺たちは、やけに食堂が騒がしいのに気がついた。

見てみるだけ見てみようと“ナニカ”を見物している人たちを押しのけ──というか俺らを見た途端勝手に道をあけた──、騒ぎの渦中を覗き込む。

───そこにはあの転校生がいた。
ありえないスピードで大量の食べ物を胃の中に吸収している。
一体、男にしては少し小さいその体のどこに大量の食べ物が送られるのだろうか。

とりあえず食べ終わった頃を見計らい、奴に声をかけた。


裕「ちょっといいか」


転校生はこちらを向いて無言で俺を見つめた。
口数の少ない奴だということは、朝にもう分かっている。

だが理事長には饒舌だった所を見るに、喋るのは身内だけなのだろう。


裕「聞きたいことがある。屋上に来い」


俺たちが何か言えば、大抵は誰もが従う。
例外といえば理事長や永石先生といった、本当にすごい人たちのみ。
つまり、俺らはそれだけの地位と力を持っているということなのだ。

この転校生も例外ではない。

そう、思っていた。











悠「断る」



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