嘘ごと、愛して。


「なにやってるの」


砂利を乱暴に踏む音と共に、正義の声がした。


「なにも」


私から素早く離れた晴人さんは正義と向き合う。


「正義にいじめられてないか、確認してた」


「なんだそれ」


「じゃぁ私は失礼するよ」


またね、私にそう目配せして晴人さんは現れた時と同じように静かな足取りで行ってしまった。







「泣いてたのか?」


「まさか」


ただ少し感動しただけだ。



「目が赤いけど」


正義はセーターの袖で、私の目元を拭いてくれた。

ゴシゴシと、少し乱暴な動作が正義らしい。



「ゴミが入っただけ」


新学期が始まっても正義を除いて誰一人として私に話し掛けて来なかった。妹はずっと一人で寂しい思いをしていたのかもしれないと疑い始めていた矢先、晴人という恋人だった人が現れ、少し救われた気がした。



「……晴人は止めておけ」

「そんなつもりないけど…どうして?」

「俺が嫌だから」


どういう意味?

いつもいつも、正義の中途半端な態度に惑わされる。


けれど、怖くて聞けなかった。


ねぇ、正義。
もしかして私(妹)のこと好きなの?

そう聞いて、もしもその答えが、
YESだとしたらーー





「泣きたい時は俺の傍で泣け」


「ありがとう」




もう少しだけ正義の傍にいたいと思う。
その思いは、絶対に、知られてはならない。
不謹慎なこの心を、捨ててしまえれば良いのに。



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