嘘ごと、愛して。
「なにって、幼馴染だ。早く離れろ!」
感情的になることがほとんどなく、どちらかというと淡々とした性格である裕貴が声を荒げたことにより、我にかえる。
「離して!」
「ほら、嫌がってるだろう!」
裕貴の眉間にシワが寄る。
「…離さないよ、絶対に」
言葉とは裏腹に、正義は腕を外した。
「どんなことがあっても、離さない」
正義?
裕貴とは対照的に正義は落ち着いていた。
「よくそんな自信があるな。留年した、臆病者のくせに」
「臆病だと?」
「見知らぬ土地に行くことが怖くなったんだろう。散々、留学のことを鼻にかけていたくせに、カッコ悪い」
事情は知らないが、裕貴は留年の話題で挑発していた。
2人の口喧嘩がヒートアップしてしまう前に止めないと。いつの間にかギャラリーも増えてしまった。
「2人とも、お昼休み終わるからもう止めよう」
そもそも何で口論になってるかさえ、理解できない。私が悪いの?
「ちっ」
先に引くのは裕貴だと思っていたが、意外にも正義は反論しなかった。
盛大な舌打ちをして、あっさり背を向けた。
なんなのよ、いったい。
「……奴には気を付けろ」
腕時計を確認した裕貴の言葉に頷く。
「ねぇ、正義のことで知っていることがあるなら教えて」
「あいつのことなど、知る必要はないよ」
裕貴は苦笑し、答える気はなさそうだった。