初恋とチョコレートと花束と。
教科書を読めば読むほど、頭の中に小さな引っかかり。内容が、いつも使ってる教科書と全く違う。
ノコギリの使い方とか、身の回りに使われてる材料だとか、私にはよくわからないものばっかり。

・・・こんなの、習ったっけ?

不思議に思って教科書を閉じると、そこには『中学生の技術』と書かれていた。


その時隣から笑い声が聞こえた気がして、慌てて矢川くんの方を見たらやっぱり!
お腹をかかえて笑ってる。

「あー、面白かった。まさか本当に引っかかるとはね。いいものを見せてもらったよ」
そう言うと、彼は机の中をごそごそと漁りだした。


本当に引っかかったって・・・こうなる予想はしてたんだ。
ちゃんと確かめないで読み始めた私も悪いんだけれど・・・。

「中学校の教科書なんて小学校じゃ使わないじゃん」と小さな声で呟くと、矢川くんにも聞こえたらしくて「教科書、としか言わなかったのは山下さんでしょ?だからそれ貸したんだけれど」と彼は首をかしげる。


・・・そういえば確かに私『教科書貸して』としか言ってない。
それにしても、なんで中学校の教科書持ってるんだろう?

不思議に思って聞こうとしたら、矢川くんが何かを見つけたみたいで「あったあった、はいこれ。探してたんでしょ?」と言って別の教科書を差し出す。

うん、今度はちゃんと小学3年生の国語の教科書。
「でもこれ、矢川くんのなんでしょ?私に貸しちゃってそっちはどうす・・・・・・





――え、なんで?どういうこと?」
彼から受け取った教科書をひっくり返したら、そこに書かれていたのは私の名前。
間違えるわけない、この前書いたばっかりの私の字。

「んー、なんでだろうね?でも今回だけは教えてあげる。今朝・・・だったかな、職員室に行った時にたまたま落とし物コーナーで見かけてさ。興味本意で名前の欄を見たら山下さんのだったから、あとで渡そうと思ってこうして机に入れておいたってわけ。まぁ結局授業の直前になっちゃったけれど」

すらすらと噛まずにそう言った矢川くんは眼鏡を上げ直すと、自分の教科書を取り出して読み始めた。
と同時にチャイムが鳴り始める。


・・・なんか色々とさっぱりしない部分が多いけれど、落ちていたのを拾って届けてくれたとでも思えばいっか。

それにしてもいつの間に落としたんだろう?
心当たりなんて全然無いし・・・。
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