沈黙する記憶
「夏男君?」


「はい」


「おかしいわね。夏男君に会う時はそう言って出るのに……」


杏のお母さんは首を傾げてそう言った。


「今日は何も聞いてなかったんですよね?」


「そうよ。だから千奈ちゃんや学校の友達と遊びに行くんだと思ってたんだけど……」


夏男と会う理由を秘密にしておきたかったから、お母さんにも何も言わずに出かけたのかもしれない。


だとすれば、杏は妊娠の事を両親には話していないのだ。


あたしは余計に何も言えなくなり、窓の外へ目を向けたのだった。
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