沈黙する記憶
「夏男に用事なんでしょう? 今夏男は1人で杏ちゃんを探しに行ってるの」


少し視線を下げてそういう夏男のお母さん。


「そうですか……」


裕斗はがっかりしたように肩を落とした。


「2人も、杏ちゃんを探しているの?」


「そんなところです」


裕斗が言葉を濁して返事をした。


なんだか夏男のお母さんを騙しているような気分になり、あたしは視線をそらせた。


「夏男がいないなら、また出直します」


裕斗はそう言い、お母さんに頭をさげた。
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