沈黙する記憶
駅前で人目につきにくいホテルとなると、限られてくる。


大通りは避けて、横道に入った所に数軒建っているビジネスホテルが目に入った。


裕斗が足を止める。


「このあたりか……」


克矢がビジネスホテル街を見てそう呟いた。


どのホテルも飾り気がなく、灰色の細長い建物だった。


部屋の間取りもきっと似たようなものだろう。


このどこかに杏がいるかもしれない。


そう思うと、中まで入れない事に苛立ちを覚えた。


「ホテルに電話して、杏みたいな子が出入りしていないか聞いてみる?」


さやがそう言うが、裕斗がまたすぐに否定した。


「個人情報をアッサリ教えるようなホテルはないよ」


たしかに裕斗の言う通りだけれど、探す手段として視野に入れてもいいのにと、腹立たしく感じる。


裕斗は自分が主人公になって探偵ごっこをやりたいだけなのだ。


あたしは裕斗の言葉を無視し、周辺のホテルの名前をスマホにメモした。


後で電話番号や住所をちゃんと調べるつもりだ。
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