浮気の定理
早く桃子に本当の笑顔を取り戻してあげたい。



そのためならなんだって出来ると思った。



そう思ったと同時になんとなくこの場にいるのが後ろめたくなる。



いくら桃子のためとはいえ、自分のやろうとしてることは最低な行為だ。



そっと桃子から腕を離すと、思い出したようにみんなに別れを告げる。



心配かけないように、努めて明るく……



大きく手を振ってから背を向ける。



それからはもう振り返らなかった。



いつものbarで、いつものカクテルを呑みながら彼を待とう。



意識はもうすでに仲のいい女友達から、煙草の匂いと弛んだお腹で安心させてくれる、彼の元へと移っていた。
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