淡雪
 高保の家の客間に、五人の男女が座している。
 渋い顔の伊田、青い顔の良太郎。

 同じく青い顔の左衛門に母親。
 そしてその前には、一人凛と顔を上げた奈緒。

「……な、何ということを……」

 良太郎が、絞り出すように言った。
 奈緒の前には、小槌屋から借りた金が、黄金色に輝いている。

「申し上げた通りです。伊田様、どうぞ、お納めください」

 言いながら、奈緒はずいっと膝先の三方を、前の伊田に勧めた。
 伊田は渋い顔のまま、腕組みして黙していたが、ややあってから、うむ、と頷いた。

「承知した。かくなる上は、何としても左衛門殿の昇進をお世話しよう」

「父上っ!」

 堪らず良太郎が片膝立ちになる。

「父上は、奈緒殿が身を売ることになっても構わぬと仰せられるのか!」

「そうは言わぬ。だがこのままでは、借財を返す当てもなかろう。何、昇進が叶えば確かに返済できる。昇進さえできれば、奈緒殿も無事おぬしに嫁げるのだから安心せぃ」

「し、しかしっ」

「むしろ、その心意気、あっぱれじゃ。それでこそ武士の娘。安心しなさい、わしが必ず左衛門殿を上の地位に引き上げてみせるぞ」

 ぽん、と肩に手を置く伊田に、奈緒は深々と頭を下げた。

「なにとぞ、よろしゅうお願い申し上げます」
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