バツをキミに
「知らないのか。知らなかったら?」
「まず調べる!」


明地に口酸っぱく言われていたことだ。


「とりあえず、検索します!」


スマホを取り出そうとした円に、明地は何かを思い出したようにして止めた。


「あ、しなくていい。やっぱり、いい。やめとけ」
「え?」
「これはな……」


レクチャーを受けようと、神妙に姿勢を正した円に、明地が近づく。

呆気に取られている間に、その距離は唇でゼロになった。


「……こういうこと」
「………………ふぇぇぇぇ……!?」


湧き上がっていた涙も全部受け止めてしまうほど、瞳を大きく開いた円に、明地は満足そうに微笑んだ。


「無知なお前に罰だな」
「え……嫌がらせ?」
「なんでそうなるんだよ。×って、キスって意味だよ、知っとけよ」
「知りませんよ、そんなの……」


明地から出た「キス」という言葉に、円は自分の唇を指で触れる。


……ここに本当にキスされた……!?


「お前の原稿に、バツを書くたびに、キスしてやろうかと思ってたけどな」
「なんで……?」


嘘か本当か分からないセリフに、円の頬は赤くなるばかりだ。

明地から受けるのは叱責ばかりで、好意を感じたことなんか一度もなかったのに。
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