秘密の会議は土曜日に

12 結婚の試用運転

土曜日の朝、やけになって歌いながら部屋を片付ける。こんなことになってるのは絶対に高柳さんが悪い。


「プロマネなのに~。メンバーの労働意欲を下げないでくださ~い。たっかやなぎさ~ん。」


自作の歌は愛猫りっくにんは耳障りだったようで、拭き掃除をしながら近付くと迷惑顔で逃げ出した。


金曜はあんなことがあったから、午後の仕事に全く身が入らなかった。そのせいで結局残業となって、昨日は掃除する気が起きなかったのだ。


りっくんの抜け毛が凄いから掃除機だけはマメにかけているけれど、その他の掃除はいつも適当。モデルルームみたいな家に住んでる高柳さんに、この部屋は見せられたものではない。


「でも、頑張っても片付かないものばっかりだなぁ」


毎号買ってる技術雑誌が三種類。その他にも技術書が壁を埋め尽くすように並んでいる。それらを本棚に整列させたところで、女性らしい部屋からは程遠い。


さらにコンピュータが二台。パソコンじゃなくて業務用のタワー型サーバなので、インテリアとしては無骨すぎる。

他にもネットワーク勉強用に買ったL3スイッチ、マルチディスプレイ、バックアップ用のNAS、それらを繋ぐケーブル……と、女性の部屋としての印象を悪化させる機器だらけのこの空間。


「……見なかったことにしよう」


逆にクローゼットや洗面台は殆ど物が無いから片付ける必要も無いほどスッキリしている。


あとはリビングだけキレイにして、カモフラージュに花でも飾ってみよう。……普段は花なんて飾らないけど。


リビングに置いてあるキャットタワーは、普段はりっくんが掃除させてくれないので今日は徹底的に綺麗にする。


「フギャー!!」


案の定、縄張りを荒らされたりっくんに攻撃を受けるけど気にしていられない。


「りっくん、今日は良い子にしてよね」

「シャー!!」


ご機嫌ナナメの猫パンチを追加されて生傷が増えた。痛かったけど、とにかく掃除は終了だ。


今日は暖かいのでラベンダーのカットソーにハイウエストのフレアスカートという組み合わせに着替える。


これなら体の線も出ないし、背中も胸元も開いてない。普段は肌が露出したところで「そういうものかな」としか思わないのだけど、高柳さんに会うと思うと何故か恥ずかしい気がする。酔って下着姿まで見られてるのに、我ながら変な話だ。
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