秘密の会議は土曜日に
「夫というのが気が早いなら、恋人でもいいけど、仕事の関係を優先させないでくれ。

まさか今でも俺を顧客だとか上司だとか思ってる訳じゃないよね。」


宗一郎さんの声に苦さが混ざった。私は宗一郎さんをプロマネとして尊敬してるんだけど……そう言われるのは嫌かな。


「……私には、仕事とかプライベートとか分けて考えられないみたいです。プロマネとしての宗一郎さんも、おウチでの宗一郎さんもどっちも同じ、大事な宗一郎さんです。」


だから、宗一郎さんのために仕事できるのは何よりの幸せだと気付いてしまった。


「私はこのプロジェクトの仕事、妥協したくありません。」


「理緒……。その考えは立派だと思うけど、俺は理緒が心配なんだ。仕事に没頭すると、平気で自分のことを後回しにするから。」


立派と言われて首を捻った。私はただそうしたいだけなのに、それを立派だと言われたら変な感じがする。例えば、宗一郎さんとキスして立派だと誉められるような感じ。


どうやったら伝わるのかな……。電話では難しいかな。


なんて言おうか考えていたら、電話からりっくんの鳴き声が聞こえてくる。


「宗一郎さんは今日は早く帰ってこれたんですね。昨日は遅かったから……良かった。」


「理緒も、何時でもいいから帰れる時連絡して。迎えに行くから」


その後打ち合わせを済ませて、二人の仕事を手伝う。糸井沢さんがコンビニのスイーツを買ってきてくれたので、もぐもぐと食べつつ夢中で仕事した。


「理緒ちゃんチェック早いね、糖分を燃料にして動く精密機械って感じ。」


「むぐ……いっぱい食べてすみません」


「俺らの仕事手伝わせてるから、せめてこれくらい好きなだけ食べてって思うけど……理緒ちゃんよく太らないなぁ」


「それが理緒の不思議なとこなんだよ。多分仕事辞めたら一瞬で太るタイプだな」


「二人とも。余計な感想の前に、手が止まってますよ」


「……ハイ」



3時には予定していた作業を終えて、チェックの結果2件の修正点が見つかった。


「まじありがとー。理緒の言う通り、確認項目を省いてたら危なかったな。あとは残り二日で資料まとめれば大丈夫だから。」


「私なんかでも役に立てて良かった」


会社から駅まで、鴻上くんと二人で歩いていく。糸井沢さんは仮眠室で寝て会社に泊まるそうだ。


「あの糸井沢にぐいぐい食って掛かるとは、大したもんだな。あいつのこと苦手じゃなかった?」


意見が対立するのは本当は怖い。でも、宗一郎さんが「組織での対立なんてあって当然」「組織の中で否定されても傷付く必要はない」って教えてくれてから、少しずつ反対意見も言えるようになった。


「仕事なら平気だよ。指示も的確だから、仕事はむしろやり易いくらい。

私みたいなキモいコミュ障に普通に話してくれるし……」


「ぶっ……キモいコミュ障って本気で言ってんの?」
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