秘密の会議は土曜日に
「自分のことはちゃんと分かってるよ。このグループの人は優しいから私にも話しかけてくれるけど、自分の会社じゃ居場所なんて無かったし。」


「まさか!居場所ないって嘘だろ?少なくともここでは、お情けで話しかけてる奴なんかいねーぞ?」


「本当だよ。『使えない』って言われてここに来たんだもん。」


「理緒が『使えない』って本気か?お前、バリバリのエンジニアだろ!?」


「そんなことないよ。会社では散々だったけど、宗……高柳さんにプロジェクトに誘ってもらって、ここでの仕事は毎日楽しくて。

だから本当はずっと常駐していたいなぁ。プロジェクトが終わらなければいいのに……」


「待て待て、終わらないプロジェクトなんてデスマだからな。怖いこと言うなよ。

でも、今の理緒を見てそんなこと言う奴は何処にも居ないと思うけどなー。

もし理緒が言ってるのが本当なら、お前ここに来て変わったんじゃね?」


「私が……変わった?」


「そうそう。コミュ障から、頼りになるエンジニアに。もう一度自分のことをちゃんと見直してみろよ。

で、そんなムカつく会社は辞めてウチに入れ。


あ!でもプロジェクト終わるまではダメだからな!理緒に抜けられたらヤバイから。」


「……ありがとう、そう言ってくれて、嬉しい」


「こっちこそ、今日はありがとな。こんな時間に帰しといて悪いけど、また明日な!」


それぞれ別のタクシーに乗って帰る。宗一郎さんに迎えに来てもらうのは悪いので、連絡はしなかった。


私が変われたのなら、それは宗一郎さんが私を変えてくれたからだ。宗一郎さんのために、もっと仕事を頑張りたい。宗一郎さんのいる場所はここからずっと遠いから……





「こんな時間まで働いて……迎えに行くと言ったでしょ?」


「まだ起きてたんですか!?」


玄関のドアを開けると、宗一郎さんの呆れた顔が目に入る。


「心配で眠れるわけないだろ」


靴を脱ぐなり腕の中に絡めとられ「無理しすぎ」と怒られた。

「ごめんなさい……でも、無理はしてないです。私、仕事楽しくて」


宗一郎さんは悲しそうに眉を下げたけど、「早く寝た方がいい」とそれ以上は何も言わない。

シャワーから出ると、軽く唇を合わせて優しく体にくるまれる。疲れたせいか、腕の中で私はすぐに意識を手放した。
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