秘密の会議は土曜日に
気がつけば後ろからぎゅっと抱き締められて、堅い腕が胸の前で交錯していた。


「え……?」


「好きだ、理緒。15年前も好きだったけど、またうっかり惚れちまった。

本気で、どうしようもなく好きなんだ。」


肩に頭を乗せて、嗚咽するように告げられた。頭の重さも形も、よく知る宗一郎さんとは違う。体に強烈な違和感が走って身を捩った。


「でも…」


「知ってるよ。理緒が俺を男として見てないことなんて。でも俺たちなら、上手くやれると思わないか?

少しずつでいいから俺のこと見てよ、二度も理緒を失いたくないんだ。」


あまりにも切実な声に、縛られたように動けなくなる。鴻上くんは強引に私の顎を上げて、マスクをした顔に唇をつけた。


「っ……」


直接触れなくても、全身が悲鳴をあげたように感じた。首を振って唇を避けると「ごめん」と小声で告げられる。


「風邪うつるよ」


「大丈夫、マスクしてるからセーフ。

……理緒の相手なら知ってるんだ。理緒のこと好きだから、すぐにわかったよ。付き合ってるっていうのは驚きだったけど。

でも……理緒を泣かせるようなアホなら俺の方がマシ」


「でも、好きなの。忘れたりできない」


「うん、その気持ちごと俺が受け止めるから。好きなだけ泣けよ」



声をあげて泣いて、みっともなくずっと泣いて、鴻上くんはその間じっとしててくれた。


「……ごめん」


「これくらいで謝んな」


「違うの。私は鴻上くんを好きにならない。

これからも、宗一郎さん以外に好きになれるなんて人いない。

だから、何でも受け止めて貰うわけにはいかないよ」


くしゃっと歪んだ顔を、直視するのは辛かった。


「馬鹿だろお前。こういうときフツー女は余韻を持たせるもんだろ?保険なりキープなりできるように曖昧にしとけ。

こんな鉈で割ったようなきっぱりした返事、期待してねーよ……」


「せめて本当のことを言いたくて。ごめん、いつも馬鹿で。

でも気持ちは嬉しかったの。それに、中学の時は私も本気で好きだった。あの時も、今もありがとう。」


長い長い沈黙の後で、鴻上くんは「15年ぶり二度目の田中理緒への失恋とか、まじ笑えねー」と泣き笑いのような顔で言った。それから、ばっと体を離して髪をぐっしゃぐしゃにかき混ぜる。


「あーーーーーー!!

もうわぁったよ、お前の欲しいもんをくれてやる!」


「え?」


「お前は仕事以外では基本的に馬鹿だから、馬鹿みたいなことしか考えられない!」


「そんなに、何度も馬鹿、馬鹿と……」


「事実だから仕方ねーだろ?

だから馬鹿理緒の数万倍は女子力の高いこの俺様がブレインとなってやる。その時の状況、経緯、もう少し詳しく話してみな。」
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