秘密の会議は土曜日に
鴻上くんに、宗一郎さんを好きになったきっかけや、土曜日に打ち合わせをしてくれたことをぽつぽつと話す。


今は同居していること、結婚を考えるように言われたこと、それから出張中の電話のやり取りについても。たどたどしくても、私なりに懸命に伝えたつもり。




それなのに、


「ぶっ……」


「ねえ、今笑った!?私には凄く深刻な問題なんだよ?」


怒った顔をしても、鴻上くんはお腹を抱えて笑うのを止めない。


「ぷっくくく。あはははっ。

無理、勘弁して。理緒は俺を失恋の傷心にも浸らせてくれねーんだな、駄目だ腹痛い。」


「いくら鴻上くんでもそんなに笑ったら怒るよ!」


「悪い悪い……。あの皇帝がマムシドリンクで陥落とか有り得ないっしょ。

てか、打ち合わせ、ぎ、議事録とか……クソ恥ずかし過ぎて……。


それにしても、お前を好きになるなんて、あの高柳さんも案外人間臭いとこあるんだなー。

泣く子も黙る皇帝が、馬鹿理緒に振り回されるなんて珍事、周りが聞いたらどうなるんだか。」


「鴻上くん?さっきから笑ってるだけで、全然アドバイスしてくれてないんだけど……。」


「ごめんごめん。アドバイスは『何もしなくていい』だ。皇帝の帰還を信じて待て。」


「ええと……それだけ?」


鴻上くんは大きく頷いて、やっと笑うのを止めた。優しい微笑みを浮かべて諭すように言葉を続ける。


「それからな、理緒。

組織の仕事なんて誰がやったって代えが利くんだよ。お前も、俺も、あの高柳さんすら例外じゃない。それが会社ってもんだ。

恋人の唯一無二な存在とは比べようもないんだよ。

お前みたいな仕事馬鹿にはわかんないかも知れないけど、高柳さんも『恋人』と『プロマネ』のダブルスタンダードは相当キツかったと思うぜ?」


「そう……なの?」


「お前は『好き』も『憧れ』もごちゃ混ぜにして仕事に邁進すればいいけど、逆の立場ならどうだ?

高柳さんに、お前のために昼夜問わず全力で働けなんて言えるか?」


もし、私がプロマネだったら。そして、高柳さんがその中のスタッフだとしたら……。

そんなことは有り得ないけど、宗一郎さんに「期限を守って」「ミスの無いように対策して」と告げるのは想像でも心が痛い。ましてやそれが原因でハードワークで倒れたりしたら……



「あ……無理だ。」


「だろ?わかったならタクシーでも捕まえてさっさと帰れ。俺は理緒をこき使うから、来週までに風邪を直しとけよ。」


「うん、ありがとう……。本当に、ありがとう。

鴻上くんはまだ帰らないの?」



「俺はヤケ酒して帰るっ。こう見えて死にそうに辛いんだよバーカ!」


ビルの正面玄関はもう閉まっているので、裏口から出て、手を振って別れた。


「鴻上くんはお酒弱いんだから、ほどほどにしときなよ!」

その背中に声をかけると、振り向かないままで「うい」と声が聞こえた。
< 141 / 147 >

この作品をシェア

pagetop