秘密の会議は土曜日に
「お客様、サイズぴったりですねー」


店員さんも「よくお似合いですよ」という常套句すら言えずに苦笑いをしてる。いたたまれなくなってすぐお会計をしようとすると、その店員さんに止められた。


「もうお支払はお済みですよ。本当はヘアスタイルも変えてあげたいんですけどねー。せめてピンをつけるとか。当店にお取り扱いが無いのが残念で……」


「いえ、髪はこのままで大丈夫なんで。」


急いで高柳様の姿を探すと、店の外にいらっしゃるのが見える。


「高柳様ー!服の支払いはわたくしっ……がっ」


高いヒールの靴は初めてだったので、いつもの調子で歩いたら足首がかくっと内側に曲がった。そのまま転びそうになると、体が支えられてふわっと地面に着地する。


「あぶないっ……大丈夫ですか?」


「しし失礼しましたっ、大丈夫っ

……じゃないかもしれませんっ……」


急に高柳様のお顔が近くなってそっちの方が大問題だ。二の腕をがしっと掴まれているのも重大な懸案事項で、息が止まるし体は石化するし、全身が悲鳴を上げている。



「すごく可愛いです、よく似合ってる。」


「ご冗談の前に、お金をお支払しますのでっ」


「要らないです。さしあげるために買ったんですから。

……その姿、新しい理緒さんを見つけたようで嬉しいけど、でも他の人の前で晒されるのは惜しい気もしますね。」

高柳様の大きな目が丸く見開かれているのが眩しくて、私は逆に貝のように目を閉じた。


「この服はっ、高柳様にお会いする時専用ということですね。」


「あなたと言う人は。何も分かってないのにそういうことを言うんだから。

……でも、嬉しいですけどそんなお気遣いは無用です。今の俺には理緒さんの服装を縛る権利はないから。」
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