秘密の会議は土曜日に
「本当にわかってるのかな……」と耳のすぐそばで呟かれる。


ここには他に誰もいないから内緒話などしなくても良いのに、耳に吐息が感じられるような距離だ。そのせいか呼吸困難かと思うほど胸が苦しくなってきた。


高柳さんはどうやら石化、凍化、呼吸停止の力を操れるらしい。力の発動はできれば止めて欲しいのだけど……!


その時、静かな部屋にカードキーがロック解除する音が聞こえて、大きな声が響いた。


「田中ぁー、欲しいデータ見つかったかー?この中で迷ってねー?」


鴻上くんが探しに来てくれたらしい。声がする方向に行こうとすると、どういうわけか腕で遮られてしまう。


「なぜですか?」と言おうとしたら、高柳さんは人差し指を私の唇のすぐそばに立てるので何も喋れなくなった。目前に迫る高柳さんの視線は熱いのか冷たいのか、もう分からない。


本当に、どうして……。



鴻上くんはわざわざ探しに来てくれたのに、こうやって隠れていたら悪いんじゃないだろうか。


しかも、高柳さんと尋常じゃない距離感で二人でいるところを見られたらまずい気がする。理由はわからないけどとにかくダメな気がする。


コツコツと足音が近づいてきて、あと少しでこちらに気が付きそうというくらいになっても、高柳さんは謎めいた顔で私をじっと見たまま。

さっきからずっと顎にかけられた指先が冷たく感じられるから、私の顔は熱いのかもしれない。


コツ……コツ……


足音がすぐそばまで迫って「田中?」と声がした。心臓がバクバクし過ぎてもう限界……と目を閉じると、その瞬間に手の上にハードディスクを乗せられる。


「田中さん、探してたのはこれでしょう?」


「!?」


今さらのようにそう言われて、返事もできずに固まる。それなのに高柳さんは「違った?」と涼しげな顔で聞いてくる。まるで一秒前までの事実は無かったみたいな静かな表情。



「ち、違いません」



これは、一体何事!?急変する高柳さんに私の理解は追い付かないまま。



そんな私と高柳さんを不思議そうに交互に見た鴻上くんは、「まったく、返事くらいしろよなー」と口を尖らせた。でもすぐに気にしなくなったようで「ここ最初に来た奴は絶対迷うんだよ」と笑っていた。


「わざわざごめんっ……。」


私はさっき停止した分の呼吸を取り戻すべく、浅い呼吸を繰り返してフラフラとデスクに戻ることになった。


その後の仕事にまるで身が入らなかったのは言うまでもない。
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