秘密の会議は土曜日に
「新規のプロジェクトだけはどうかっ……」と追いすがるオジサンから、その人はさっき私が提出した資料を取り上げた。


丸めて机を叩かれた後だから紙はぼろぼろになっているけど、高柳さんと呼ばれた人はそれに目を通しながら言った。


「システム停止と言っても一部のアプリの表情不具合だけなんだ。

システム稼働率は何パー保証?それと今回のシステムダウンの時間は?」


オジサンは咄嗟に言葉が出て来なかったので私から伝える。


「稼働率は99.9パーセントの保証契約です。システムダウンは7時から10時4分までの184分です。」


「それなら契約上は今のところ保証の範囲内ですね。既に復旧済みなら本件の対応は優先度を下げても構いません。」


システム稼働率の計算を一瞬で終えてしまった頭の回転の速さに驚く。


「しかし、担当が言っていたように今後同等のトラブルが起きないように改善する必要はあります。

そのご提案をまとめて頂く期間として、どれくらい必要ですか?」


さっきの会話を思い出して納期を訂正した。


「……三日、と申しましたが可能でしたら五日ほど頂ければ、類似案件を含めて十分な見直しができるかと。」


「ですよね?

私があれだけ言ったのに、あなたと言う人はまったく。人の話を聞かないんだから。」


報告書に目を落としつつも、呆れたように呟いている。


「謝るだけが交渉ではない、とも伝えた筈です。

今回の件は弊社が依頼した仕様変更に伴うトラブルだし、その時もタイトなスケジュールで対応して頂いたようだ。

そういう貸しを材料にして譲歩させればいいんです。

自分の立場を不利な状況に追い込まないこと。これは鉄則ですよ。」


まるで上司に諭されているようだった。


この人はクライアントなのに、どうして自分の会社が不利になるような事まで私にアドバイスしてくれるんだろう?
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