秘密の会議は土曜日に
「ともかく、五営業日後の火曜日にまたお会いしましょう。次回の打ち合わせは私が出席します。」


五日後と言っても、土日は抜かして営業日で日数をカウントしてくれたのも有り難かった。お客さんによっては、こういうときに平気で土日を含める人がいる。


この人のお陰で休日出勤は免れそうだ。謎の風紀取締り委員、ありがたや……。

はーと深く息を吐くと、その人は立ち上がって名刺を差し出す。


「申し遅れました。私は高柳宗一郎と申します。」


受け取った名刺を見て、驚きのあまり言葉を失った。


エヴァーグリーンインフォテクノロジー
戦略事業部
事業部長 高柳 宗一郎


この若い風貌で事業部長って……しかもこんな大企業で。名刺を見て固まっていると、さらに衝撃の内容が伝えられる。


「本件でのプロジェクトマネージャーを兼務しております。」


え!?


あの泣く子も黙る冷血漢、鬼のプロマネってこの人だったの!?


思わずその人の顔を見上げて……
私は至近距離で顔を見てしまったことを深く後悔した。


さらさらとした黒髪。無駄なお肉なんて一ミリもない見事なフェイスライン。高い鼻筋は気品があって、男の人らしく引き結ばれた唇と相まって精悍な印象だ。

ともするとシャープ過ぎるその顔を柔らかく演出するのは、甘さを残した目元。大きな瞳と深い陰影が芸術的なバランスで妖しい色気を放っている。


ヤバイ、この人の顔は目に毒過ぎる!



仕事相手だとしても、こんな容姿の男性を見たら私はいずれ石になってしまうだろう。


おずおずと自分の名刺を差し出して、それきり下を向いた。一秒でも早く帰りたい、もう何事も起こりませんように……。


しかし、私のささやかな願いは次の一言で砕け散った。


「随分悪名が高くなってるみたいだけど、晒し首って何の事?」


クスクスと笑い声を立てて聞かれ、全身の毛穴という毛穴から冷や汗が吹き出た。

そうだった……私はさっきこの人の前で「プロマネは鬼畜皇帝」と大騒ぎしたんだ!
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