私と貴方

···蛍斗③


副社長から
「手紙を読んで見て下さい。」
と、言われて
副社長は、社長室を出ていかれた。

親父の手紙には、
自分達 親の育て方が
間違っていたのだと言う
お詫びから始まり
会社にご迷惑をかけた事への
謝罪が書かれていた。

嫁である柚子は
とても出来た嫁であり
孫二人も とても可愛くて
親思いの良い子達である事が
書かれていた。

柚子は、俺の知らない間も
父の日、母の日
バレンタインやクリスマス
お正月には、必ず会いに行き
お彼岸には、墓参りをしていたようだ。

自分達が体調を崩すと
駆けつけてくれて
身の回りの世話をする。
自分の生活があるから
大丈夫だと言っても
微笑むだけで。

夫である息子の事で
愚痴一つ言われた事もない。
本当に出来た嫁で
こんな事になり
ただ、ただ、申し訳ないと。

あんなダメな男と別れて
幸せになって欲しいが
そうすれば、
嫁や孫達に会えなくなる
その方が辛く悲しいと書いてあった。

俺は、鈍器で殴られたような
痛みを胸に感じていた。
涙が、ボタボタと落ち
スラックスに大きなシミが·····

平田弁護士は、側にいて
「良い奥様なんですね。」
と、言われたから
「····私は、何を見ていたのでしょうね。」
と。
「副社長は、とても残念がって
おられました。」
「情けない次第です。
こうならなければ
わからない、気づかない
妻を馬鹿にしていたなんて。」
「もう一度、再起して下さい。」
と、平田弁護士と話していたら
「杉田さん。
本当に残念です。
ですが、我社に残り頑張ってほしい。」
と、いつのまにか、戻られていた
副社長から言って頂けた。
「本当に申し訳ありません。
せっかく、目に止めて頂けたのに。
恩を仇で返すような事になり。」
と、頭を下げた。
「手続き等が色々あるでしょうから
一週間、お休みをして全て
終わらせてから異動をして下さい。」
と、副社長に言われた。
 
行き先は九州だった。
市川は、東北だ。

俺は、社長から預かった手紙を
副社長に渡して
副社長と平田弁護士に頭を下げて
社長室を後にした。
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