掌の世界を君と。
***
会社の飲み会の帰り、私は2つ先輩の西尾さんと駅に向かっていた。
普段、彼と接する機会はあまりなく、彼に心惹かれている私にとってはラッキーな状況だ。
彼はクールだけど心地いい空気感があり、今も会話はないけれど息苦しさはない。
吐き出された白い息から視線を上げると、白くふわふわしたものが目に入った。雪だ。
雪を掌に乗せながら、私が彼を好きになった日も雪だったと思い出したとき、彼の手が私の手を包み込んだ。
驚いて彼を見る。
「……あの、西尾さん?」
「寒そうだから。こうすれば少しはあったかいだろ」
「……はい」
彼の手はひんやりと冷たいのに、なんだかホッとする。
西尾さんは誰にでもこういうことをするのかな……それとも、期待してもいいの……?
そう思えば、密かに彼のために用意していたバッグの中のチョコレートの存在感が増した。
交差点の赤信号で立ち止まる。ふと西尾さんが口を開いた。
「あのさ、勘違いされたら困るんだけど」
「ま、待ってください!」
私の期待を否定される気がして、私は咄嗟に彼の言葉を止める。
彼が掌の世界を私と共有してくれるのは、寒さを和らげるためだとわかっている。
だけど、私の想いが彼に伝わることなく雪のように消えてしまうのは嫌だ。伝えなきゃ。
「あの、私……ひゃっ」
片手でバッグからチョコレート入り紙袋を出そうとしたとき、肩からバッグが滑り落ちてしまった。
最悪だ……!
慌ててしゃがみこみ、バッグと転がった紙袋を拾っていると、西尾さんも私の隣にしゃがみこんできた。
「大丈夫か?」
「……すみません、大丈夫です」
「謝る必要はない。立てる?」
いつものように彼には笑みはない。でもいつもよりも距離が近く感じ、気づいたときには私は紙袋を彼に差し出していた。
「私、西尾さんが好きです」
私の告白に彼が表情を変えたのがわかり、私は紙袋を彼の元に残したまま、手を自分の身体に引き寄せた。
「あの、ごめんなさい。迷惑ですよね」
「さっきの話の続きしてもいい?」
「あっ、はい……」
「勘違いされたら困るしちゃんと言っておくけど、俺は好きな子としか手を繋いだりはしない。ほら、立って」
西尾さんは私の渡した紙袋とバッグを手にし、もう片方の手で呆然とする私の腕を掴んで立ち上がらせた。
次の瞬間身体を抱き寄せられ、私の耳元で彼は囁いた。
「先に言わせてごめんな。……俺も好きだ」
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