キライ、じゃないよ。
「樫がなにを考えてるのか、全然分かんない」

「ごめん、ちゃんと話す。話すから、聞かせて欲しい。俺のこと、キライか?」

「ズルイ……樫は、ズルイよ」


分かってるよ、俺は卑怯だし、狡いし、ヘタレなんだ。

分かってるから、だから……。

せめて、ゼロにして欲しいだけなんだ。

好きでもキライでもない、ゼロからなら俺にだって勝機はあるだろう?

八田のように真っ直ぐ正攻法でいけるやつと、せめて同じスタートラインに立ちたいだけだ。


「……でも、ズルイのは私も同じ」


不意に落ちた呟きに、俺は護を真っ直ぐに見つめた。


「……護?」

「さっき、樫が田淵さんじゃなくて、私の手を取ってくれた事が……すごく嬉しかったの。八田くんにも、ちゃんと話してから連れ出してくれた。彼女達に優越感感じた。でも、こんな風に考える自分が本当はキライだよ」


言った後で、護は両腕で顔を隠し、スンと鼻をすすった。


「樫のこと……キライ、」

「えっ!」

「……じゃないよ。多分その逆」

「そこはちゃんと言葉にしてよ、護ちゃん」


顔は隠したままだったけれど、彼女の言葉はちゃんと聞こえた。

気恥ずかしくてからかうように言ったら、右ストレートが飛んできた。




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